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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)147号 判決 1961年8月31日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小野実雄の上告理由について。

論旨は要するに、「債務の一部弁済に小切手の交付をもつてした場合の時効中断の事由たる承認は、債務者が小切手を債権者に交付したときにあつたものと解されるべきであつて、しかもその効力はそれと同時に完了し、爾後債務者のなんらの補足的意思行動をも要しないと解さるべきである。小切手交付後における所持人の、支払銀行からの現金引出行為の如きは、債務者の意思行動とは関わりなしに行なわれ得るのであるから、それを債務者の債務承認とみるべき余地は全然ない」というのである。

しかし、小切手は、振出人が支払人に宛てて、一定の金額の支払いを委託する有価証券であるから、支払人のする小切手金の支払いは、振出人の委託行為(論旨のいわゆる意思行動)に基づくものであることはいうをまたないところである。

原判決によれば、本件小切手の振出交付は、本件債務の弁済に代えてなされたものではなく、本件債務の一部弁済のためになされたものであるというのであるから(この点上告人も強いて争つてはいない)、右振出交付は、上告人が、本件債務の存在を認識し、その一部弁済の方法として、取引銀行に委託し、同銀行をしてその支払いをなさしめるためになされたものと解するのが相当である。

されば、支払銀行が、所持人たる被上告人から右小切手の呈示を受け、その支払いをしたということは、とりもなおさず振出人たる上告人の行為に基づいて、債務の弁済がなされたものに外ならない。

しかも、債務の弁済は、債務の承認を表白するものに外ならないのであるから、小切手の支払いによる債務の弁済は、また、債務の承認たる効力をも有するものといわなければならない。

さすれば、原判決が、本件残代金債務は小切手の支払いという一部弁済のあつた昭和二七年一〇月三日に時効を中断され、その翌日からさらに時効期間が進行する旨判示したのは正当であり、所論のいう如き違法があるとは認められない。論旨はひつきようこれと相容れない独自の見解によるものであるから採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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